基本データ(ニタリ)
| 和名 / 英名 / 学名 |
ニタリ / Common Thresher Shark /
Alopias vulpinus
属名 Alopias は「キツネ」に由来し、長い尾鰭を“狐の尾”に見立てたことから命名されています。 |
|---|---|
| 分類 | 軟骨魚綱 Chondrichthyes / メジロザメ目 Lamniformes / ニタリ科 Alopiidae / ニタリ属 Alopias |
| 体長・体重 |
成魚は全長3〜6mに達し、そのうち尾鰭(上葉)が全体の約半分を占めます。
体重は通常200〜500kg前後で、最大記録は約600kgとされています。
オスよりメスがやや大きく成長します。 |
| 分布海域 | 温帯〜熱帯域の外洋性種で、全世界の大西洋・インド洋・太平洋に広く分布。 日本近海では北海道以南の太平洋側・東シナ海などで記録され、特に相模湾や駿河湾では定置網や延縄で水揚げされることがあります。 |
| 生息深度 | 主に表層〜中層(0〜500m)を回遊し、季節や水温によって深度を変えます。 昼はやや深く、夜は表層近くに浮上する日周垂直移動を行うことが知られています。 |
| IUCNレッドリスト | EN(Endangered/絶滅危惧ⅠB類)[2020年評価]。 世界的な漁獲圧の増加により個体数が減少しており、特に外洋性長寿サメとして保全優先度が高い種とされています。 |
| 識別ポイント |
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尾鰭の長さは最大の特徴であり、獲物を叩いて気絶させる狩り方でも知られています。 大型ながら外洋性で人を襲うことはほぼありません。
① 外見の特徴
ニタリ(Alopias vulpinus)は、体長の約半分に達する長大な尾鰭の上葉が最大の特徴です。 体形は細身で流線型、胸びれは長く鎌状、第一背びれは胸びれ基部の少し後ろに位置します。 背面は金属光沢のある灰青~紫灰色、腹面は白で、体側の境界がくっきり出る個体もいます。 口と歯は比較的小型で、群れ魚を狙う生活に適応した“しなやかな筋肉質”の体つきです。
近縁のオナガニタリ(A. superciliosus)は眼が非常に大きく、 第一背びれ位置や体高のバランスもやや異なります。ヒメニタリ(A. pelagicus)は 体がさらに細く、色調や鰓裂の位置関係で見分けます(図鑑では尾鰭上葉の幅・胸びれ形状も比較ポイント)。
② 生態・行動
外洋性~沿岸外縁の表層〜中層(概ね0〜500m)を回遊し、季節ごとに水温帯を追って広域を移動します。 昼はやや深く、夜は表層寄りへ上がる日周垂直移動が知られ、稚魚・未成魚は沿岸寄りの浅場に現れやすい傾向があります。 単独行動が多いものの、ベイト(カタクチイワシ・サバ類・ニシン類など)が濃い海域では緩い集合を作ることもあります。
泳ぎは俊敏で、尾鰭をしならせて一気に加速し、時にブリーチ(跳躍)することも。 長い尾は推進だけでなく狩りの“道具”としても機能します(下記③参照)。
③ 食性と狩りの方法
主食は群れを作る小〜中型の魚類(サバ・イワシ・ニシン類など)やイカ。 とくに有名なのが、尾鰭上葉で獲物の群れを叩いて気絶・失神させる独特の狩り方です。 追い込み → 急制動 → 体軸を回すようにムチ打ち(tail-slap) → ふらついた個体を吸い込むように捕食、という一連の動作が観察されています。
口の歯は小型で、鋭く切り裂くというより小魚をまとめて飲み込むのに適します。 側線と視覚で群れの密度変化を察知し、尾の一撃の衝撃波と剪断で効率よく仕留める、エネルギー効率の高い摂餌戦略です。
④ 繁殖・成長
繁殖様式はメジロザメ目に典型的な卵胎生(無胎盤性胎生・卵食型)です。 胚は母体内で孵化後、未受精卵を摂食する卵食(oophagy)で成長します。 出生サイズは約110〜160cmと大型。産仔数はふつう2〜4(全体レンジ2〜7)で、地域差があります。
成熟サイズの目安は雄でおよそ270〜300cm、雌で300〜330cm。 成長は中〜遅速で、寿命は20年以上に達すると考えられています。 外洋を広域回遊し、産仔は沿岸浅場(ナーサリー)を利用することが多いため、沿岸漁業との空間的重なりが保全上の論点になります。
※数値は各海域の調査報告により幅があります。地域個体群のデータで上書き更新してください。
⑤ 繁殖・成長(補足)
ニタリ(Alopias vulpinus)は卵胎生(無胎盤性胎生・卵食型)で、胚は母体内で孵化した後、未受精卵を摂食して成長します。 胎仔は栄養卵を豊富に得るため、出生時には1.5m前後にも達し、他のサメに比べても非常に大きく生まれます。 一度の出産数は少なく、ふつう2〜4尾(多くても6〜7尾)ほど。 成熟年齢は雄で約7〜10年、雌で9〜13年とされ、寿命は20年を超えると推定されています。
- 繁殖様式:卵食型卵胎生(母体内で未受精卵を摂取)
- 産仔数:通常2〜4尾(最大7尾)
- 出生サイズ:110〜160cm
- 成熟サイズ:雄 約270〜300cm/雌 約300〜330cm
- 寿命:20年以上
※深海性ではなく外洋性サメとしては比較的高い回遊力をもちますが、成長が遅いため資源回復には時間がかかります。
⑥ 人との関係・保護
ニタリはその独特な尾鰭と大きさからスポーツフィッシングや延縄漁・定置網での漁獲対象となることがあります。 肉・鰭・皮・肝油が利用され、とくにアジア市場では鰭(フカヒレ)需要によって漁獲圧が上昇しました。 一方で本種は成長が遅く産仔数が少ないため、過剰漁獲による影響が深刻化。 IUCNでは2020年時点でEN(絶滅危惧ⅠB類)に分類され、国際的にも保全対象となっています。
| 主な脅威 | 延縄・定置網での混獲/過剰漁獲(特に鰭・肉目的)/沿岸ナーサリーの環境悪化 |
|---|---|
| 保全状況 | ワシントン条約(CITES)附属書Ⅱに掲載。IUCNレッドリスト EN(2020年)。日本でも一部海域で漁業管理対象に。 |
| 推奨アクション | サイズ・性別・季節別漁獲統計の整備/未成熟個体の保護/回遊ルートの国際共同調査。 |
| 教育・観光利用 | 尾鰭を使った狩りの映像は人気が高く、海洋教育・ドキュメンタリー素材として価値が高い。 |
⑦ 観察・展示情報
外洋性のため水族館での長期展示は極めて困難で、生きたニタリを見る機会はほとんどありません。 まれに若魚が定置網に迷い込み、短期間の展示・標本化されることがあります。 体温調節や遊泳速度が高いため、狭い水槽環境には適応できず、展示成功例は世界的にも数件にとどまります。
- 観察可能な環境:相模湾・駿河湾・外洋沖などで定置網漁や漁協水揚げ時に確認。
- 映像での観察:BBC Earth、National Geographic、Okinawa Churaumi Aquarium などが高画質映像を公開。
- 標本展示:国立科学博物館(東京)や沼津港深海水族館などで一部標本・模型展示あり。
もし実物を見る機会があれば、その尾鰭のバランスと筋肉の発達を観察してみてください。ニタリの泳ぎは、海洋の力学と進化の妙を感じさせます。




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