シロワニ

サメ図鑑

🦈 シロワニ ― 恐ろしい顔に似合わぬ“おとなしい巨人”

和名 / 英名 / 学名 シロワニ / Sand Tiger Shark / Carcharias taurus
分類 テンジクザメ目(Lamniformes)/ シロワニ科(Odontaspididae)/ シロワニ属(Carcharias
体長・体重 平均:全長 2.5〜3.0 m(150〜200 kg)/ 最大:3.2 m 以上
分布海域 温帯〜亜熱帯の沿岸域。日本では房総半島〜九州の太平洋岸で確認。世界では米国東岸・南アフリカ・オーストラリア沿岸など。
生息深度 浅海〜200 m 前後。岩礁や沈船周辺を好む。
IUCNレッドリスト CR(絶滅危惧IA類) ※地域によっては個体群が激減。南アフリカでは保護対象。
識別ポイント 鋭く突き出た歯が口から露出/ ずんぐりした体型/ 灰褐色の体色と斑点/ ゆっくり泳ぐ穏やかな動作

外見の特徴

名前の「シロワニ」は“白いワニ”を意味しますが、実際にはワニではなくサメです。 恐ろしい顔立ちの由来は、常にむき出しになった鋭い歯。 一本一本が長く細く、魚やイカを滑らかに刺し貫く構造をしています。 背側は灰褐色、腹側は白く、体には小さな斑点が散らばる個体もいます。

背びれは前後に2つ、ほぼ同じ大きさで丸みがあり、泳ぐ姿はゆったりとしています。 目は小さめで、瞳孔の形は縦長。 体型は太くずんぐりしており、重量感が漂います。 水族館ではこの見た目のインパクトから人気が高く、 「ホホジロザメより怖そうだけど、実は穏やか」と言われることもしばしばです。

生態・行動

シロワニは夜行性で、日中は岩陰や沈船の中でじっとしていることが多く、 夜になると浅場に移動して狩りを行います。 回遊性はあまり高くなく、同じ海域に長期間とどまる定住型。 群れではなく単独または少数で行動する傾向があります。

特徴的なのは、肺を持たない魚類でありながら「中性浮力」をとることができる点です。 これは、口から海水を飲み込み、胃の中に空気をためて浮力を調整するという独自の方法によります。 そのため、水族館などではゆっくりとホバリングするように漂う姿がよく見られます。

食性と狩りの方法

主に魚類やイカなどの中型獲物を捕食します。 水中で素早く追うのではなく、視覚と側線で獲物を察知し、短距離で襲いかかる待ち伏せ型です。 歯は鋭く長いスパイク状で、捕らえた獲物を逃さない構造。 一度に多くを食べず、必要な分だけをゆっくり消化する省エネ型の生活を送ります。

体の動きは穏やかで、人間や大型魚を積極的に襲うことはありません。 ただし、釣り糸にかかった魚を奪うなど、 opportunistic(機会的)な行動を見せることがあります。 その慎重で落ち着いた性格から、英名では「グレイナース・シャーク(Gray Nurse Shark)」とも呼ばれ、 “海のナース”という穏やかな別名を持っています。

繁殖・成長

シロワニの繁殖はサメの中でも特に珍しい胎内共食い(子宮食)で知られています。 母ザメの体内には左右2つの子宮があり、それぞれに複数の胚が発達しますが、最初に孵化した仔ザメが他の卵や胚を捕食して生き残ります。 その結果、1回の出産で生まれるのは左右の子宮から1匹ずつ、計2匹のみ。 出産時にはすでに1m近い体長に達しており、すでに立派な捕食者の姿をしています。

この繁殖戦略は、少数精鋭の個体を確実に生かすための“究極の適応”とも言えます。 しかし個体数回復が遅く、乱獲や混獲の影響を受けやすい原因にもなっています。 成熟年齢は10歳前後、寿命はおよそ30年。 成長速度は遅く、環境変化への耐性もそれほど高くないため、海洋保全の象徴種の一つとされています。

人との関係・保護状況

シロワニは見た目に反して極めておとなしい性格のサメです。 ダイバーが近づいても攻撃することはほとんどなく、むしろ一定の距離を保ちながら静かに漂う姿が印象的です。 水族館ではゆったりとした泳ぎ方と、口からのぞく鋭い歯とのギャップが人気を集めています。

かつては「危険なサメ」と誤解され駆除の対象となりましたが、近年はその誤解が解け、保護活動が進んでいます。 IUCNではCR(絶滅危惧IA類)に指定され、南アフリカ・オーストラリア・アメリカなどでは法的に保護されています。 また、ダイビング観光の目玉として経済的価値も高まりつつあり、 “見せるサメ”として共生を模索する動きも広がっています。

観察・展示情報

  • 日本国内の展示:アクアワールド茨城県大洗水族館、海遊館、八景島シーパラダイス、名古屋港水族館などで展示実績あり。
  • 観察のコツ:夜行性のため、日中は岩陰や水槽の底で休むことが多い。ゆっくり泳ぎながら水中を漂う姿を観察できる。
  • 海外のダイブスポット:オーストラリア東岸(ウーロングゴング周辺)、南アフリカのクワズール・ナタール州沿岸など。

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