ネコザメ

サメ図鑑

外見の特徴

ネコザメ(Heterodontus japonicus)は、体長1m前後の中型のサメで、日本近海の岩礁域に生息します。名前の由来は、まるで猫のような丸い大きな目と、愛嬌のある顔立ちにあります。頭部は幅広く、短い鼻先の上に二つの突起(“眉のようなコブ”)があり、これがユーモラスな印象を与えています。体の背面には茶褐色の地に暗い斑点が並び、環境に溶け込むような保護色です。

背びれは二つあり、それぞれの前方に鋭い棘(とげ)があるのが特徴です。この棘は外敵への防御に役立つだけでなく、分類学上も重要な識別ポイントです。胸びれや腹びれは発達しており、海底を“這うように”移動するのに適しています。口は下向きで歯は独特な二形性を持ち、前歯は小さな犬歯状、奥歯は臼状で硬いものをすり潰せます。これが、彼らの食性と密接に関わっています。

生態・行動

ネコザメは主に夜行性で、昼間は岩のすき間や砂底でじっと休んでいます。夜になると活動を始め、海底を這うように移動しながら餌を探します。その動きは非常にのんびりしており、いかにも“海の猫”といった穏やかさです。 縄張り意識は強くなく、複数個体が同じ場所で見られることもあります。季節的な移動は少なく、比較的限られた範囲で生活しています。

水温は15〜22℃程度を好み、春から初夏にかけて繁殖活動が盛んになります。浅場の岩礁や藻場を好むため、ダイバーにも観察しやすいサメとして知られています。性格は非常におとなしく、人に対して攻撃的な行動を取ることはありません。 水族館では底を静かに移動し、ときおり砂を掘って身を隠す姿が見られます。この仕草が可愛らしく、展示人気の高い理由のひとつになっています。

食性と狩りの方法

ネコザメは底生性の捕食者です。主な餌は貝類、甲殻類、ウニ、ヒトデ、小魚など。夜の海底でゆっくりと獲物を探し、嗅覚と電気受容器(ロレンチーニ器官)で微弱な信号を感知します。獲物を見つけると、口を大きく開いて吸い込み、強力な臼歯で殻を砕いて食べます。 特にアワビや巻き貝などの硬い殻を噛み砕く力は非常に強く、同じサイズの他のサメには見られない特徴です。

狩りはスピードよりも執拗さと器用さで勝負します。岩のすき間に潜む獲物を鼻先で探り、必要であれば前びれで体を支えながら角度を変えて噛みつきます。行動全体が非常に知的で、獲物を追い詰めるというより「探して、見つけて、食べる」タイプの捕食者です。 そのゆったりとした動作は、捕食者というよりも“海底の研究者”のようでもあり、多くのダイバーが観察を楽しむ理由になっています。

繁殖・成長

ネコザメは卵生で、春から初夏にかけて交尾・産卵を行います。雌は長さ約12cmのらせん状の卵を岩のすき間にねじ込むようにして産みつけます。この形が流れに強く、卵が流されない工夫になっています。 卵の中では約1年近くかけて仔ザメが育ち、孵化する頃には体長15cmほどの小さなネコザメが誕生します。生まれた時点で成体と同じ形をしており、すぐに自力で餌を探すことができます。

成長速度は遅く、性成熟にはおよそ7〜9年を要します。寿命は20年以上とされ、長寿なサメのひとつです。飼育下では水温管理と餌の種類によって差がありますが、長期飼育に成功している水族館も多く、人工ふ化から成体までの完全飼育例も報告されています。 この繁殖のしやすさと愛嬌のある見た目から、ネコザメは「教育展示の定番種」として多くの施設で親しまれています。

人との関係・保護

ネコザメは温和でおとなしい性格のため、人を襲うことはありません。そのユーモラスな顔立ちと太い体型からファンが多く、「海の猫」として親しまれています。日本近海では底引き網などで漁獲されることもありますが、食用としての価値は高くなく、主に研究・展示・観察用として扱われます。 一方で、沿岸開発による岩礁域の減少や、海水温の上昇が生息環境に影響を与えており、局地的な減少も報告されています。

IUCN(国際自然保護連合)では「LC(軽度懸念)」に分類されていますが、海洋環境の悪化や卵の採集が続くと、将来的には保全対象となる可能性もあります。現在では、多くの水族館が繁殖研究を進めており、人工ふ化から成長までを記録・公開する試みも活発です。 このような取り組みは、一般の来館者がサメに対する恐怖よりも理解を深める機会となり、海洋教育の一環としても大きな意味を持っています。

観察・展示情報

  • 主な展示施設:葛西臨海水族園、下田海中水族館、名古屋港水族館、海遊館、アクアワールド茨城県大洗水族館、京都水族館など。
  • 観察ポイント:昼間は岩のすき間や砂の上でじっとしていることが多く、夜間に活動的になります。目を閉じたような表情と頭の突起(眉状隆起)が特徴的。
  • 卵の観察:水族館では「うずまき卵」を展示していることが多く、透けて仔ザメの姿が見える場合もあります。
  • 自然下での遭遇:ダイバーが伊豆半島や房総半島の岩礁域で目にすることがあり、水深10〜40mほどの浅場に生息。温厚なので接近しても逃げず、写真撮影の人気被写体。

ネコザメは、日本人にとって最も親しみやすいサメのひとつです。海底で静かに暮らす姿や、らせん状の卵など、どこか不思議で愛嬌のある生態が魅力です。 水族館でも比較的出会いやすい種なので、訪れた際には水槽の底をじっくり覗いてみてください。岩の影から丸い目でこちらを見上げるネコザメに出会えるかもしれません。

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