基本データ(ヘラツノザメ)
| 和名 / 英名 / 学名 |
ヘラツノザメ / Birdbeak Dogfish /
Deania calcea(= しばしば Deania calceus と表記;WoRMS受容名は D. calceus)
日本の資料や水族館解説では Deania calcea を用いる例が多い(同一種)。 |
|---|---|
| 分類 | 軟骨魚綱 Chondrichthyes / ツノザメ目 Squaliformes / アイザメ科 Centrophoridae / ヘラツノザメ属 Deania |
| 体長・体重 |
ふつう全長 90〜120 cm。最大記録は約127 cm、体重は〜8.7 kgの報告。胎仔は最大12尾程度の出産例。 小型〜中型の深海性ツノザメ。雌の方がやや大型化する傾向。 |
| 分布海域 | 世界の温帯域を中心に広域分布。東大西洋(アイスランド〜喜望峰)、西インド洋、西〜南東太平洋(本州沿岸・南オーストラリア・ニュージーランド・チリ〜ペルー)など。日本では千葉県以南の太平洋沖・八重山諸島等で記録。 |
| 生息深度 | 60〜1,490 mに出現し、ふつう400〜1,400 m帯の大陸棚外縁〜斜面の深海底層性。 |
| IUCNレッドリスト | NT(Near Threatened/準危急)(2019評価)。地域によっては保全評価が異なることがある(例:豪州域の評価資料)。 |
| 識別ポイント |
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形態は深海適応型で、長い吻・低い背鰭・背鰭棘・発達した皮歯などが特徴。繁殖は卵胎生(無胎盤性胎生)で、出産数は少〜中数。
① 外見の特徴
ヘラツノザメは、名前のとおりヘラ状に長く突き出した吻(ふん)をもつ深海性ツノザメの一種です。 体は細長く流線型で、表面は細かな皮歯(歯のような鱗)に覆われており、手で触るとざらつきを感じます。 背びれは2基あり、それぞれの前縁には棘(スパイン)が生えていますが、体に比べて低く目立ちません。 体色は灰褐色から暗灰色で、光の届かない深海では保護色として機能します。 眼は比較的大きく、暗所でわずかな光を捉えることに適応しています。
一見すると地味な姿ですが、長い吻と滑らかな体表が特徴的で、同属のサガミザメやタロウザメと見分けるポイントになります。 成魚は体長1m前後に達し、雌の方がやや大型です。
② 生態・行動
本種は水深400〜1,400mほどの大陸斜面や深海の中層を中心に生息しています。 泳ぎは緩やかで、海底近くをゆっくりと回遊しながらエサを探す姿が観察されています。 深海の低温・高圧環境に適応した低代謝型のサメで、急激な運動よりも持久的な行動に向いています。
また、深度ごとに個体群が棲み分けしていることも知られ、若い個体はやや浅め、成熟個体はより深い層に多い傾向があります。 地域によっては群れを形成することもありますが、基本的には単独行動が多いと考えられています。
③ 食性と狩りの方法
ヘラツノザメは肉食性で、主に小魚・甲殻類・イカ類などを捕食します。 深海の獲物は動きが遅いため、素早い追跡よりも、長い吻で水中の微弱な電流を感知して獲物を探り、 一気に吸い込むように捕らえるスタイルをとると考えられています。
顎は細長く鋭い歯が並び、小さな獲物を切り裂くように捕食します。 食物連鎖では中層性魚類や小型甲殻類を捕食する中間捕食者の位置づけにあります。 胃内容物の調査から、底生の無脊椎動物も摂取していることが確認されています。
④ 繁殖・成長
本種は卵胎生(無胎盤性胎生)で、雌の体内で卵がふ化し、仔魚は卵黄を栄養にして成長します。 一度の出産数は10匹前後とされ、他の深海ザメと比べても比較的少産です。 胎仔はおよそ25〜30cm前後で生まれ、出生時から吻が長く特徴的です。
成長は緩やかで、成熟までに長い時間を要します。 成魚は雄で約1m、雌で1.2m前後に達するとされますが、成長速度や寿命には個体差が大きく、 深海性のため正確な寿命データは少ないのが現状です。
近縁種のデータから推定すると、ヘラツノザメも長寿・晩熟・少産という深海サメに共通するライフサイクルを持つと考えられます。
⑤ 繁殖・成長
ヘラツノザメ(Deania calcea)は卵胎生(無胎盤性胎生)で、胎仔は卵黄を主栄養として母体内で発育します。 出産数は少〜中数(おおむね数尾〜10数尾程度)で、出生サイズは約25〜30cmと推定されます。 深海性サメに共通して、成長は遅く・成熟は晩い傾向が強く、雌の方が大型化します。
- 繁殖様式:卵胎生(無胎盤性)
- 産仔数:数尾〜10数尾(地域差あり)
- 出生サイズ:約25–30cm
- 成熟:雄≒1.0m/雌≒1.1–1.2m で成熟に達する傾向
- 世代時間:長い(少産・晩熟・長寿のライフヒストリー)
※地域・標本数によって数値に幅があります。深海種のため生態データは継続更新が望まれます。
⑥ 人との関係・保護
人に対する危険性は極めて低い一方、深場の延縄・底びき網などで混獲されることがあります。 肉・肝油が利用される地域もありますが、商業的には主対象ではありません。 ただし、少産・晩熟のため漁業圧に対する耐性は高くありません。
| 主なリスク | 深場漁業での混獲/努力量の増大/データ不足(資源状態の不確実性) |
|---|---|
| 保全状況 | IUCN評価はNT(準危急)とされる地域が多く、予防的な管理が推奨されます。 |
| 推奨アクション | 混獲データの収集・公開/水深・季節に応じた操業調整(回避策)/雌雄・体サイズ別のモニタリング |
| 教育・展示価値 | 「長い吻」「背鰭棘」「肛門鰭なし」など深海サメの典型形質を学べる教材として有用。 |
⑦ 観察・展示情報
生息域が400〜1,400m帯の深海にあるため、自然下での観察はほぼ不可能です。 水族館での生体長期展示は極めて困難で、出会い方としては「学術標本」「短期飼育記録」「ROV(無人探査機)の映像」が中心になります。
- 観察ポイント:ヘラ状の長い吻、背鰭2基+各前縁の棘、肛門鰭の欠如、ざらつく皮歯。
- 似た種との見分け:Deania hystricosa(サガミザメ)はより粗い皮歯と体色の暗さ、Centrophorus属(タロウザメ等)は吻が短く体格ががっしり。
- 展示の難しさ:減圧障害のリスク、低温・高酸素要求、輸送ストレス。
図鑑ページに動画を添える場合は、研究機関・信頼できる深海映像チャンネルのクリップを優先し、公開設定の直前チェックと代替候補を用意すると安定します。
関連動画
動画魚類図鑑NO.79:ヘラツノザメ(+サガミザメ比較)
出典:動画魚類図鑑(日本語解説)
Birdbeak Dogfish – species profile(英語)
出典:Like a Fish in Water
Birdbeak Dogfish(Tollo pajarito)解説
出典:教育系チャンネル(西語/英語)
公式ROV映像(サイト内再生)
- SeaRover D665:Birdbeak dogfish – 出現タイム 00:34:47 付近 (アイルランド海域・ROV調査映像)
- SeaRover D682:Birdbeak dogfish – 目撃記録あり (海底斜面 1140m などで確認)




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