ミツクリザメ

サメ図鑑

基本データ

和名 / 英名 / 学名 ミツクリザメ / Goblin shark / Mitsukurina owstoni (Jordan, 1898)
分類 軟骨魚綱 Chondrichthyes / ネズミザメ目(Lamniformes)/ ミツクリザメ科(Mitsukurinidae)/ ミツクリザメ属(Mitsukurina
体長・体重 成魚はおおむね 3–4 m。
最大は617 cm(報告値・TL)※記録に幅あり。体重の公式記録は少ない。
分布海域 世界三大洋に散在的に分布。大西洋(メキシコ湾〜南米・西アフリカ・欧州沿岸/海嶺域)、
インド洋〜西太平洋(南アフリカ、日本・台湾、オーストラリア、ニュージーランドなど)。
生息深度 ふつう270–960 m、記録範囲30–1,300 m※海底谷・大陸斜面に多い
IUCNレッドリスト LC(Least Concern/軽度懸念)(評価年:2017)※深海漁業での混獲は受けるが、世界的な脅威水準は低いと評価
識別ポイント へら状に長く平たい吻(ロングロストラム)/小さな目(瞬膜なし)
強く前方へ飛び出す顎(超前突)と、釘状に細長い歯列
・やわらかく“たるみ”のある体(フラビー体)、尾びれに腹葉がないシルエット
・生時は淡いピンク色(皮下の血管が透ける)で、死後は灰褐〜褐色化

① 外見の特徴

ミツクリザメ(Mitsukurina owstoni)は、へら状に長く平たい突き出た吻(ロストラム)と、 前方へ“カタパルト”のように飛び出す強烈な顎の前突で知られる深海性のサメです。 体色は生時に淡いピンク~灰桃色(皮下の血管が透けるため)で、死後はくすんだ灰褐色になります。

胴体はやわらかくフラビー(弛緩)で、二つの背びれ・腹びれ・臀びれはいずれも小型。 尾びれは上葉が長く、下葉は弱く発達します。目は小さく瞬膜はなく、歯は細長い釘状で上下とも前方部が目立ちます。 体表のプラスチックのような独特の質感と、吻下面に密集するロレンチーニ器官(電気受容器)が外見上のポイントです。

② 生態・行動

主に大陸斜面・海底谷・海山などのバチヤル帯(おおむね水深数百〜千数百m)に生息し、 海底付近を単独でゆったり巡航する半底生~底生性の暮らし方をします。 遊泳は省エネ型で、長い吻と発達した感覚器で獲物の位置を検出し、必要な瞬間だけ加速するのが基本です。

昼夜の鉛直移動は大きくないと考えられますが、地形に沿った局所的な移動は行います。 捕獲記録は漁具への混獲がほとんどで、自然下での行動観察は限られています。 ただし、水中映像からは「近距離での急激な顎前突→吸い込み→後退」という ミツクリザメ特有の一連の捕食動作が確認されています。

③ 食性と狩りの方法

食性は魚食中心で、深海性の小~中型硬骨魚(例:リュウグウノツカイ類の幼魚群・ワニトカゲギス類)、 イカなどの頭足類、甲殻類を捕食します。最大の武器は、口腔と咽頭の容積変化による 強力な吸い込み捕食と、上下の顎を前方へ素早く射出する“スリングショット給餌”です。

スピードで追うのではなく、近距離の奇襲に徹します。 吻下面の電気受容器で獲物の微弱電流を捉え、距離が詰まった瞬間に顎を前突。 釘状の歯で獲物をホールドし、負圧で一気に吸い込みます。視界の悪い深海でも成立する、 ミツクリザメならではの“待ち伏せ+瞬発”型の戦略です。

④ 繁殖・成長

繁殖様式は卵胎生(無胎盤性胎生)と考えられています。 ラミノイド(ネズミザメ目)では母体内の卵を胚が摂食する卵食(オオフォジー)が一般的で、 ミツクリザメでも卵食の可能性が高いものの、野外・飼育下での詳細データは限られています。 出生直後の体長はおよそ80–100 cmと推定され、成熟サイズは雄で約2.5–3 m、雌はそれ以上になる傾向があります。

成長は遅く、産仔数も多くないとみられるため、世代交代には時間がかかります。 とはいえ世界的な分布域は広く、現状の保全評価はLC(軽度懸念)。 今後も深海漁業の混獲の把握と、標本・出現記録の蓄積が重要です。 ※繁殖生態の数値には未確定要素が残るため、随時アップデート推奨。

⑤ 繁殖・成長

ミツクリザメ(Mitsukurina owstoni)の繁殖様式は、ネズミザメ目に一般的な 卵胎生(無胎盤性胎生)と考えられています。母体内で胚が発育し、栄養は 主に卵黄に依存します。近縁群の知見から、胚が未受精卵を摂る卵食(oophagy)の 可能性が高いとされますが、野外での直接記録は限られています。

出生サイズは約80〜100cmと推定され、成長は遅く、成熟サイズは雄で 2.5〜3m前後、雌はそれ以上に達する傾向があります。深海性・低代謝型であることから 産仔数は多くなく、世代時間は長いとみられ、個体群の回復は緩やかです。

  • 繁殖様式:卵胎生(無胎盤性)/卵食の可能性高
  • 出生サイズ:約80–100cm(推定)
  • 成熟サイズ:♂ 2.5–3m、♀ はより大型(傾向)
  • 世代特性:少産・晩熟・長寿(深海サメ型)

⑥ 人との関係・保護

深海性で人の生活圏にほとんど現れないため、人身リスクは極めて低いサメです。 出現記録の多くは底びき網や延縄などの混獲に由来します。商品価値は限定的で、 学術研究・標本・メディア取材の対象となることが多い種です。

IUCNレッドリスト評価はLC(軽度懸念)ですが、これは分布域が広く、 世界的な脅威が現時点で限定的と判断されたためです。実際には深海漁業の拡大や 海底地形に依存する生息環境の変化が、長期的なリスクとなり得ます。 ※長い世代時間=回復が遅い点を考慮し、予防原則に基づく管理が望ましい。

主なリスク 混獲・深海漁業の努力量増加/生息環境(海底谷・斜面)の変化/データ不足
推奨アクション 混獲データの収集・公開/漁具・深度帯の調整(回避策)/標本・生態記録の蓄積
教育的価値 深海生態・顎前突機構の教材として有用(科学コミュニケーション向け)

⑦ 観察・展示情報

自然環境での観察はほぼ不可能に近く、大陸斜面・海底谷(数百〜千数百m)に依存するため レジャーダイビングでの遭遇例はありません。沿岸に打ち上がる若齢個体の報告が稀にあるほか、 研究・漁業活動での混獲が発見の主経路です。

  • 展示の難易度:極めて高い(減圧・低酸素耐性・長距離輸送が課題)。長期飼育の確立例はごく少数。
  • 国内での“出会い方”:学術標本の公開、特別展での標本展示・動画解説。メディアでは顎前突映像が代表的教材。
  • 観察ポイント(標本・映像):へら状の長い吻、顎の超前突、釘状の歯列、弛緩した体、淡いピンク色(生時)。

もし図鑑ページで動画を設置する場合は、顎の“スリングショット給餌”が明確に映る教育機関・ 公式メディアのクリップを選び、再生可否の直前チェックと代替候補(2〜3本)の用意を推奨します。

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