ハカールとは —— アイスランドの伝統食

ハカール(アイスランド語で hákarl。より正確には kæstur hákarl=「発酵させたサメ」)は、主に**ニシオンデンザメ(グリーンランドシャーク)**などオンデンザメ科の肉を、独特の方法で“無毒化”して食べられるようにしたアイスランドの伝統食です。強烈なアンモニア臭で有名で、「食べ物というより洗剤っぽい匂い」と言われることもある、完全に“慣れが必要な味”の代表格です。

なぜハカールが必要だったのか(毒の問題)

前提として、ニシオンデンザメの肉は新鮮なままだと有害だと説明されています。体内に尿素やトリメチルアミンオキシド(TMAO)などが多く、これが原因でそのまま食べるのは危険とされます。そこでハカールは、時間をかけた加工でそれらを分解・排出させ、食べられる状態へ持っていく“保存の知恵”として成立しました。

作り方(伝統的な製法)——埋める→圧搾→乾燥

伝統的な製法は大きく2段階です。まずサメを頭と内臓を取り除いてきれいにし、胴体(あるいは肉塊)を砂利混じりの地面に掘った浅い穴へ入れます。ただ埋めるのではなく、上から砂利や砂をかぶせ、さらに石など重いものを載せて圧力をかけ、体液をじわじわ押し出すのがポイントです。ここで起きているのは「腐敗」ではなく、塩漬けや燻製とも違う、独特の“発酵・熟成”で、季節にもよりますが6〜12週間ほどこの状態で寝かせます。

次に掘り出した肉を細長く切り分け、屋外の風通しの良い小屋や軒下で数か月(一般に4〜5か月)吊るして乾燥させます。この段階で表面に茶色い硬い皮(クラスト)ができ、提供前にその外皮を削いで中身を切り出します。よく見かける“白いサイコロ状のキューブ”は、この乾燥・熟成を終えた中心部をカットしたものです。

現代の作り方(衛生管理・効率化)

現代では衛生管理や効率のため、地面に埋める代わりに、排液穴をあけた容器などで圧搾しながら熟成させる方式も紹介されています。基本の思想(体液を抜き、長期の熟成と乾燥で“食べられる状態にする”)は同じですが、環境や設備に合わせてプロセスが整理されているイメージです。

味・匂い・食べ方(ブレンニヴィンとセット)

ハカールは匂いが強烈なので、食べ方は「小さなキューブをつまようじで」が定番になりがちです。部位差も語られていて、腹側の肉は赤みがあって噛みごたえが強く、胴体側は白っぽくて比較的やわらかい、といった説明があります。そして定番の組み合わせが、アイスランドの蒸留酒 ブレンニヴィン(brennivín) と一緒に口にするスタイルです。

アイスランドでの扱い(今は“文化・行事・観光”寄り)

現在のアイスランドでハカールは、「日常食」というより文化・観光・行事の側面が強い食べ物です。象徴的なのが冬の伝統行事 Þorrablót(ソーラブロート) と、そこで並ぶ伝統料理盛り合わせ þorramatur(ソーラマトゥル) の一員としての位置づけです。保存食文化の“体験”として提供され、旅行者向けには「挑戦メニュー」的に語られることもありますが、背景には厳しい自然の中で食料を保存し、生き延びるための技術があります。

いま語られる論点(資源・持続可能性)

ニシオンデンザメは成長が遅く長寿で、資源的にデリケートだという説明があり、ハカール目的の捕獲や混獲が持続可能性の観点で話題になることがあります。伝統食であると同時に、現代の自然保護・資源管理とも結びついて語られる食文化になっています。

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