ハナカケトラザメ

サメ図鑑

🦈 ハナカケトラザメ ― 日本の海にすむ“小さなトラ模様”

和名 / 英名 / 学名 ハナカケトラザメ / Cloudy Catshark / Scyliorhinus torazame
分類 ネコザメ目(Carcharhiniformes)/ トラザメ科(Scyliorhinidae)/ トラザメ属(Scyliorhinus
体長・体重 平均:全長 60〜80 cm / 最大:約1.0 m(雌がやや大型)
分布海域 日本近海の太平洋側に広く分布(房総半島〜九州南岸)。韓国南部・東シナ海にも出現。
生息深度 水深80〜300 mの岩礁・砂泥底。夜間に浅場へ移動することもある。
IUCNレッドリスト LC(軽度懸念) ※生息数は安定。底引き網などで混獲されることあり。
識別ポイント 体全体に茶褐色の雲状模様/ 鼻孔から口に伸びる皮弁(鼻かけ模様)/ 細長い体型と猫のような目

外見の特徴

ハナカケトラザメは、その名の通り「鼻をかけたような模様」と「トラのような体色」が特徴の小型サメです。 背中の雲状の斑紋は個体によって濃淡や形が異なり、同じ模様のものはほとんどいません。 全体的に細長く、頭部はやや扁平。口の両脇から伸びる皮弁が“鼻かけ”の由来になっています。

目はネコのように縦長で、暗い環境でも光を取り込める構造です。 背びれは2基で、後ろの背びれが尾びれ寄りに位置しています。 尾びれは長く、体の約1/4を占めるほど。背中側は滑らかな褐色、腹側は淡いクリーム色をしています。 模様の美しさから、国内の水族館では観賞魚的な人気も高いサメです。

生態・行動

夜行性で、日中は岩の隙間や砂底でじっとしています。 動きは緩やかで、底生魚や甲殻類を探して泳ぎ回ります。 群れを作ることはほとんどなく、単独行動が基本。 水温が安定している海域を好み、季節による移動は限定的です。

水族館では水槽の底にじっとしている姿が多く見られますが、夜間になると活動的に泳ぎ回り、岩の隙間を器用にすり抜けます。 見た目の可愛らしさとは裏腹に、嗅覚と聴覚が非常に発達しており、近くの獲物の微弱な動きにも敏感に反応します。

食性と狩りの方法

ハナカケトラザメは肉食性で、底生の小魚やエビ・カニ類、頭足類などを捕食します。 砂底に身を潜め、獲物が近づくと一瞬で飛びかかる待ち伏せ型のハンターです。 歯は細かく鋭いノコギリ状で、獲物を逃さず噛み切る構造をしています。 餌を飲み込む際には頭を左右に振って、体をひねるような独特の動作を見せます。

捕食対象は夜間の底生生物が中心で、特に砂泥地にすむ甲殻類を好みます。 一方で、人に対しては非常に臆病で、捕獲やダイビング中に観察されてもすぐに岩陰に隠れることが多いです。 餌付きやすい性質を利用し、近年は人工飼育にも成功しています。

繁殖・成長

ハナカケトラザメは卵生のサメで、春から夏にかけて岩や海藻に卵を産み付けます。 卵は長さ約6〜7cmの細長いカプセル状で、両端にくるくるとした糸状の突起(巻きひげ)があり、岩や海藻に絡みつくように固定されます。 卵の中では2〜3か月ほどかけて仔ザメが成長し、孵化する頃にはすでに体長12〜14cmほどのミニチュア版の姿をしています。

孵化直後から自力で泳ぎ、餌も自分で捕ります。 成長は緩やかで、2〜3年で成魚サイズ(60cm前後)に達します。 性成熟はおよそ4〜5年とされ、寿命は10年を超えると考えられています。 飼育下では長寿個体が報告されており、安定した環境では比較的長く生きる種です。

人との関係・保護状況

ハナカケトラザメは日本近海の底引き網漁で混獲されることが多いものの、商業的な価値は高くなく、漁業対象種ではありません。 そのため乱獲の心配は少ないものの、海底環境の悪化や海水温上昇が生息に影響を与える可能性が指摘されています。

人を襲うことは一切なく、非常におとなしいサメです。 水族館での飼育も比較的容易で、国内の多くの施設で観察できます。 見た目の美しさと飼育のしやすさから、教育展示や研究用としても人気があります。 近年は人工ふ化・飼育下繁殖の研究も進んでおり、日本では完全飼育サイクルの確立に成功した例もあります。

IUCNではLC(軽度懸念)とされており、現時点では絶滅の危険は低いですが、 海洋環境の変化や深海漁業の拡大に伴い、今後の個体数動向には注意が必要です。

観察・展示情報

  • 主な展示水族館:葛西臨海水族園、鴨川シーワールド、名古屋港水族館、京都水族館、海遊館など。
  • 観察ポイント:昼間は底にじっとしているため、水槽の下部や岩陰を覗くのがコツ。夜間照明の時間帯に活発に動く。
  • 自然下での観察:ダイバーでも遭遇はまれ。相模湾〜紀伊半島沿岸の中深場(80〜150m)で稀に確認。
  • 飼育情報:水温15〜20℃を保ち、底砂を厚めに敷くと落ち着く。冷水性で酸素要求量はやや高い。

ハナカケトラザメは、日本近海のサメ類の中でも特に愛嬌のある存在です。 その穏やかな性格と美しい模様から、サメファンや写真家にも人気が高い種類。 海の中では控えめに生きる彼らですが、私たちがその存在を知ることが、 日本の海洋生態系の多様さを理解する第一歩となるでしょう。

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