基本データ(メガマウスザメ)
| 和名 / 英名 / 学名 | メガマウスザメ / Megamouth shark / Megachasma pelagios (Taylor, Compagno & Struhsaker, 1983) |
|---|---|
| 分類 | 軟骨魚綱 Chondrichthyes / ネズミザメ目 Lamniformes / メガマウスザメ科 Megachasmidae |
| 体長・体重 |
ふつう全長 4〜5.5 m。最大は報告で約7.1 m(雌の記録)。体重は〜1.2 tの報告例あり。 ※個体差・測定法により幅あり |
| 分布海域 | 世界の熱帯〜温帯の外洋に散在(太平洋・インド洋・大西洋)。日本・台湾・フィリピン・ハワイ・米カリフォルニアなどで記録。 |
| 生息深度 |
およそ表層〜中深層(0〜700 m前後)。 夜間は表層0〜50 m、日中は120〜700 m付近へ下がる日周鉛直移動(DVM)が確認。 |
| IUCNレッドリスト | LC(Least Concern/軽度懸念)(評価年:2018) |
| 識別ポイント |
・巨大な端位の口(ラバリーな唇)と多数の極小歯列/鰓にギルレーキ(濾過) ・背びれは低く2基/尾柄に稜鱗(キール)なし/尾びれは上葉が長い非対称 ・体はフラビーで遊泳は遅い/背面は黒褐〜褐色・腹面は白 ・吻前面に白い帯状部(反射帯)があり、口腔内粘膜は銀色を帯びる |
① 外見の特徴
メガマウスザメ(Megachasma pelagios)は、その名の通り極端に大きな口が最大の特徴です。口は頭部の先端に位置する「端位の口」で、上下の唇が厚くゴムのように柔らかく、開口時は顔の大半を占めるほどに広がります。口腔内には細かい極小歯が多数並び、鰓弓にはギルレーキ(濾過器)が発達。これらはプランクトンを効率的に濾し取るための装備です。
体は柔らかくフラビーで、筋肉質な回遊サメに比べると全体に丸みを帯びたシルエット。背びれは低く2基、胸びれは幅広で、尾びれは上葉が長い非対称型です。背〜体側は暗褐〜黒褐色、腹面は白色のツートン。吻の前縁に白色~銀色の帯状部が入る個体が多く、低光量下での視認性を高める“反射テープ”のような役割を持つと考えられています。
② 生態・行動
外洋域の表層〜中深層を緩やかに回遊する温和な大型サメで、行動の柱は日周鉛直移動(DVM)。夜間は餌が濃く集まる表層(0〜50m付近)へ、日中はより暗い中深層(100〜700m)へ沈みます。これは夜に浮上する発光性オキアミや小型動物プランクトンの動きに合わせた“追尾”行動です。
遊泳は省エネ型で、体側の大きな胸びれで姿勢を支えつつ、ゆっくりと口を開閉して海水を取り込みます。群れ行動はまれで、基本は単独。季節や海況により出現海域が偏在する“希産・偶発的”な記録が多く、沿岸への漂着・混獲によって存在が知られることも少なくありません。
③ 食性と狩りの方法
食性は濾過摂食で、主食はオキアミ(ユウレイクラゲ類とともに)を中心とした動物プランクトンです。捕食スタイルは二通りあり、(1)口を大きく開けたまま前進して水柱ごと濾し取るラムフィーディング、(2)その場で口を断続的に開閉して水を吸い込み吐き出すサクション・フィーディング。状況に応じて使い分けるとみられます。
吻の白帯や口腔の銀色の粘膜は、プランクトンの群れの発光や光の散乱を利用して獲物を誘引する“視覚的ルアー”に働く可能性が指摘されています。ギルレーキは細く長い繊毛状で、濾し取ったプランクトンを喉へ送り、余分な水を鰓裂から排出。歯は極小のため大型の獲物を噛み裂くことはせず、ひたすら“濾して飲む”ことに特化しています。
④ 繁殖・成長
繁殖様式はネズミザメ目に一般的な卵胎生(無胎盤性胎生)と考えられています。母体内で胚は卵黄を栄養として発育し、ある程度成長してから出生します。出生サイズの直接記録は限られますが、推定では1.5〜2.0 m級の大型ベビーで誕生すると考えられています。
成長は遅く、通常個体は4〜5.5 mに達し、最大で約7 m超の記録もあります。雌の方が大型化する傾向があり、成熟までの年数も長いと推定されます。生息域が広く、世界的な個体群は直ちに脅威水準ではないとされる一方、混獲や漂着個体が研究情報の大半であることから、繁殖生態の詳細は依然として“未解明”が多いのが実情です。
※繁殖・成長に関する数値は、近縁群の知見や測定記録からの推定を含むため、今後の標本・テレメトリー研究で更新される可能性があります。
⑤ 繁殖・成長
メガマウスザメ(Megachasma pelagios)の繁殖様式は、ネズミザメ目に一般的な 卵胎生(無胎盤性胎生)と考えられています。胚は母体内で卵黄を栄養に発育し、 ある程度の大きさまで成長してから出生します。直接的な観察例は限られますが、出生個体は 大型(推定1.5〜2.0 m級)で、成長は緩やかです。
雌のほうが大型化する傾向があり、成熟までの年数も長いと推測されます。外洋性で出現が散発的なため、 年齢・成長式や正確な産仔数などは未解明の部分が多く、今後は漂着個体・混獲個体の系統的記録や 衛星テレメトリーに基づくライフヒストリー解析が鍵になります。
- 繁殖様式:卵胎生(無胎盤性胎生)
- 出生サイズ:推定 1.5–2.0 m
- 成長傾向:緩やか/雌がより大型化しやすい
- 最大体長:約7 m級の記録あり
⑥ 人との関係・保護
温和で人身リスクは極めて低い種です。観察・記録の多くは沿岸漂着や漁業での 混獲に伴うもので、計画的な漁獲対象ではありません。研究・教育・メディアでの注目度は高く、 海洋プランクトン生態や濾過摂食の進化を学ぶ教材として重要な位置づけにあります。
IUCN レッドリストではLC(軽度懸念)とされますが、出現頻度が低く生態情報も乏しいため、 地域的な混獲や漂着の増減を継続的にモニタリングする必要があります。特に繁殖期・回遊ルートが 特定海域に集中する場合、偶発的な漁獲圧が局所集団に与える影響が懸念されます。
| 主な脅威 | 混獲・漂着による死亡/生息域の環境変化(表層〜中深層の水塊変動)/データ不足 |
|---|---|
| 推奨アクション | 混獲データの共有・公開/標本の計測・保存・遺伝解析/テレメトリーによる回遊・深度利用の解明 |
| 教育的価値 | 濾過摂食サメの多様性(ジンベエ・ウバザメとの比較)/日周鉛直移動と外洋生態の教材として有用 |
⑦ 観察・展示情報
生体の長期飼育はほぼ実績がなく、水族館での展示は極めて稀です。多くは漂着・混獲の速報、 標本展示、解説映像での紹介となります。観察の実機会は少ないものの、国内外で記録が集中する 季節・海域があり、研究機関と連携した情報収集が進んでいます。
- 見どころ(標本・映像):巨大な端位の口/ギルレーキ/厚い唇/低い背びれと長い上葉の尾びれ/吻前縁の白帯
- 出会い方:沿岸漂着・混獲のニュース/特別展での標本公開/研究機関の追跡・解析結果の紹介
- 撮影のコツ:体が大きく動きが緩慢—横から口の開閉と鰓裂からの排水が分かる角度がおすすめ
※図鑑ページに動画を添える場合は、水族館・公共放送・科学メディアなどの公式クリップを優先し、 掲載前に再生可否と地域制限を必ず確認してください(代替候補を2〜3本用意すると安定します)。




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