ツマグロ

サメ図鑑

ツマグロ(Blacktip Reef Shark) 基本データ

和名 / 英名 / 学名 ツマグロ / Blacktip Reef SharkCarcharhinus melanopterus
“鰭(ツマ)の先が黒い”ことに由来。外洋性のブラックチップ(C. limbatus)とは別種。
分類 軟骨魚綱 Chondrichthyes / メジロザメ目 Carcharhiniformes / メジロザメ科 Carcharhinidae / メジロザメ属 Carcharhinus
体長・体重 通常全長1.3〜1.6 m、最大〜1.8 m前後。体重は15〜25 kg程度(最大30 kg級の報告)。
雌がやや大型化する傾向。成熟サイズは地域差があります。
分布海域 インド‐太平洋の熱帯〜亜熱帯のサンゴ礁域に広域分布(紅海〜モルディブ〜東南アジア〜メラネシア〜ポリネシア)。
日本では南西諸島・小笠原などの礁湖・礁原で記録が多い。
生息深度 主に極浅所〜30 m程度(礁原・礁湖・砂浜前のブレイク)。干潮時に膝下水深で見られることも。
ときに外礁斜面で〜75 m付近まで下る。
IUCNレッドリスト VU(Vulnerable/危急)
沿岸漁業・混獲・沿岸開発に伴うサンゴ礁生息地の劣化が主因とされる。
識別ポイント
  • 第一背びれ・胸びれ・尾びれの先端が黒色(第一背びれは白い細縁を伴うことが多い)。
  • 吻は短く丸み、眼は中型、体はずんぐりした紡錘形。
  • 体側に淡い明暗境界線。背面は灰褐〜オリーブ、腹面は白。
  • インタードーサル・リッジ(背びれ間の稜)がない(灰色サメ類との識別点)。
  • 外洋性ブラックチップ(C. limbatus)は第一背びれ先端に白斑がない個体も多く、より外洋寄りの環境で出現。

ツマグロは“リーフシャーク”の代表格。人を避ける傾向が強く、浅い礁湖での観察に最適なサメの一つです。

① 外見の特徴

ツマグロ(Carcharhinus melanopterus)は、第一背びれ・胸びれ・尾びれ先端の黒色帯が最も目立つリーフサメです。 第一背びれは大きく三角形で、黒帯の外側に細い白縁が入る個体が多いのも特徴。 体はがっしりした紡錘形で、吻は短く丸み、眼は中型。背側は灰褐〜オリーブ、腹側は白で体側に淡い境界線が走ります。

メジロザメ属の中でもインタードーサル・リッジ(背びれ間の稜)がない点が識別に有効。 胸びれは幅広く、先端の黒帯は幼魚ほどコントラストが強い傾向があります。

② 生態・行動

主に礁湖・礁原の極浅所〜30mで暮らす、典型的な“リーフシャーク”。 干満に合わせて礁湖と外礁斜面を回遊し、干潮時には膝下水深にまで入ることもあります。 昼夜で行動域を変え、日中はサンドバーやサンゴ頭の周りで緩やかに巡回、黄昏〜夜間に捕食活動が活発化します。

成魚は比較的定住性が高く、礁内で狭いホームレンジを持つことが多い一方、幼魚は捕食圧の低い ナーサリー(浅いラグーンやマングローブ帯)を利用します。通常は単独〜小群で行動し、人に対しては用心深く距離をとる傾向があります。

③ 食性と狩りの方法

食性は小魚中心の肉食で、ベラ・スズメダイ・ニベ類などの礁魚、甲殻類(カニ・エビ)、 ときに頭足類(イカ・タコ)を捕食します。浅瀬では波打ち際の小魚群を岸壁やサンゴの角に追い込み、短い突進で仕留めます。

感覚は視覚+側線+嗅覚を併用。澄んだ浅場での視覚依存度が高く、白い砂底と背面色のコントラストを生かした 伏せ姿勢(ロー・プロファイル)からの急発進、群れの端を切り離す“エッジ狩り”が典型です。

④ 繁殖・成長

繁殖は胎盤性胎生。妊娠期間はおおむね9〜12か月で、産仔数は2〜5尾(地域差あり)。 出生時全長は約35〜45cm。出産は礁湖内の浅場で行われることが多く、新生仔は保育場で急速に成長します。

性成熟は雄で70〜85cm、雌で90〜100cm前後が目安(海域差あり)。寿命は十数年規模と考えられ、成長は中速。 繁殖期は多くの海域で暑季に重なり、同一礁で季節的な再出現(サイト・フィデリティ)が見られます。

図鑑では、第一背びれ・胸びれ・尾びれの黒帯背びれ間稜の有無を写真とシルエットで併記すると識別が容易になります。

⑤ 繁殖・成長(補足)

ツマグロ(Carcharhinus melanopterus)は胎盤性胎生。交尾後、胚は卵黄嚢が胎盤化して母体から栄養供給を受けます。 妊娠期間は概ね9〜12か月産仔数は2〜5尾(海域差あり)。出生時35〜45cmと比較的大きく生まれます。 多くの海域で季節繁殖(暑季)が報告され、雌は毎年または隔年で出産します。

  • ナーサリー(保育場):礁湖・マングローブ帯の極浅場を新生仔が利用。捕食圧の低い場所を選んで出産。
  • 成熟サイズ:雄 約70–85cm/雌 約90–100cm(地域差あり)。
  • 成長・寿命:成長は中速、寿命は十数年規模。

図鑑では、妊娠期間・産仔数・出生サイズを海域別データで補足すると実用性が上がります。

⑥ 人との関係・保護

ツマグロはリーフ観光地で最も目にするサメの一つで、エコツーリズムの重要種です。 一方で沿岸漁業(刺網・延縄・手釣り)で混獲・小規模漁獲され、生息地の劣化(サンゴ白化・沿岸開発)も脅威です。 人に対する攻撃性は低く、ダイバーを回避することが多いものの、餌付け行為は誤学習・接近リスクを高めるため推奨されません。

主な脅威 沿岸小規模漁業での漁獲・混獲/サンゴ礁の劣化(白化・濁水・温暖化)/沿岸開発・埋め立て/観光地での餌付け
保全状況 IUCN:VU(危急)。一部国・地域で禁漁区や保護海域、サイズ・漁法制限、観光ガイドラインを導入。
推奨アクション 礁湖・マングローブの保全(ナーサリー確保)/漁獲統計の整備/混獲低減具の導入/餌付け禁止・距離ルールの徹底
ローカル価値 サメ・ウォッチングの看板種。生きたままの価値が大きく、地域観光の収益と保全を両立しやすい。

⑦ 観察・展示情報

比較的飼育適性が高いリーフサメで、世界各地の水族館で展示例があります(大水槽・環礁レイアウトが好適)。 野外では、干潮時の礁湖・砂州の縁や、朝夕のシャローでの巡回が観察好機。

  • 観察のコツ:第一背びれの黒帯と白縁、胸びれ先端の黒帯を写真で狙う。澄んだ砂地バックが識別に最適。
  • 似種との識別:外洋性ブラックチップ(C. limbatus)は背びれ間稜の有無・第一背びれ先端の白斑有無で確認。
  • 展示条件:十分な遊泳スペース、弱めの一方向流、隠れ家少なめの開放レイアウト、群れ行動に配慮した複数飼育。
  • 教育展示:礁湖の「保育場」模型、黒帯の個体差パネル、サンゴ白化と個体数の関係図を併設。

図鑑ページでは、ナーサリー地形図(礁湖・マングローブ)黒帯アップ写真を並べると、繁殖と識別の理解が深まります。

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