エドアブラザメ

サメ図鑑

基本データ(エドアブラザメ)

和名 / 英名 / 学名 エドアブラザメ(江戸油鮫)/ Bluntnose Sixgill SharkHexanchus griseus (Bonnaterre, 1788)
別名「リクザメ」「アブラザメ」とも呼ばれる大型深海性サメ。
分類 脊索動物門 魚上綱 軟骨魚綱 板鰓亜綱 サメ上目
カグラザメ目 Hexanchiformes / カグラザメ科 Hexanchidae / エドアブラザメ属 Hexanchus
現生サメの中で最も原始的な系統に属します。
体長・体重 成魚は体長3〜5m、最大で6m以上の報告もあります。
体重は平均400〜600kg、大型個体では1tを超えることも。
深海性サメとしては世界最大級の部類。
分布海域 世界中の温帯〜亜寒帯の深海に広く分布。
日本では相模湾・駿河湾・土佐湾・日本海中部以南などで確認されます。
外洋性が強く、陸棚外縁〜大陸斜面に多い。
生息深度 主に水深200〜2500mに分布。
夜間は比較的浅い100〜300mに浮上して捕食行動を行う。
深海トロールやROV映像での観察記録多数。
IUCNレッドリスト VU(絶滅危惧II類:Vulnerable) ― IUCN 2019評価
深海漁業による混獲と、繁殖速度の遅さが懸念されています。
識別ポイント
  • サメとしては珍しい6対の鰓裂(えら)を持つ。
  • 丸みのある鈍い吻部と大きな緑色の目。
  • 体色は灰褐色〜黒褐色で、腹側がやや明るい。
  • 歯は上下で形が異なり、下顎歯がノコギリ状で連続的。
  • 尾鰭の上葉が非常に長く、遊泳はゆったりとした波打ち型。

エドアブラザメは“深海の古代ザメ”として知られ、約2億年前からほとんど姿を変えずに生き続ける原始的な種です。 世界中の深海で見られますが、繁殖力が低く、保全の対象としても注目されています。

① 外見の特徴

エドアブラザメは、現生サメの中でも最も原始的な姿を残す大型の深海性サメです。 名前の「エド」は発見地のひとつである江戸湾(東京湾)に由来し、「アブラ」は体表が滑らかで油膜のようにぬめりがあることにちなんでいます。

最大体長は6mを超えることもあり、頭部は丸く鈍い吻、眼は大きく緑色に輝きます。 サメとしては珍しく6対の鰓裂(えら)を持ち、これが「カグラザメ目」の象徴的特徴です。 背びれは1基しかなく、尾びれの上葉が長く伸びていて、ゆっくり波打つように泳ぎます。 体色は灰褐色〜黒褐色で、腹側はやや明るく、深海光で見ると青銅色に輝くことがあります。

② 生態・行動

世界中の大陸棚外縁や大陸斜面など、深度200〜2500mの範囲に生息しています。 日本では相模湾や駿河湾で記録が多く、深海調査船やROV(遠隔操作潜水機)での映像も撮影されています。

日中は深い海底付近で休み、夜になると100〜300mの浅層に浮上して捕食を行う「垂直移動行動」を示します。 泳ぎは非常にゆったりしており、体をS字にくねらせて静かに進む姿が特徴的です。 成魚は単独行動をとり、岩礁域や海底谷など地形の起伏に富む場所を好みます。

深海の環境に適応した体には大きな肝臓があり、そこに脂肪(スクアレン)を多く蓄えることで浮力を得ています。 この“油”が「アブラザメ」という名の由来でもあります。

③ 食性と狩りの方法

食性は肉食性・機会捕食者で、深海魚・タラ類・メダイ・イカ・甲殻類など、あらゆる中〜大型の生物を捕食します。 時には死骸(スカベンジング)にも集まり、腐敗した鯨や大型魚の死体を食べることもあります。

特徴的なのは下顎歯がノコギリ状に連続していることで、これにより大きな肉片を引き裂くことができます。 上顎の歯は鋭く尖り、獲物を掴む役割を果たします。 捕食の際はゆっくりと接近し、体をひねりながら獲物の脇腹を噛みちぎる動作をとることが観察されています。

若い個体は小魚やイカを主に食べますが、成長とともに大型の魚類や他のサメを狙うようになります。 その強力な咬合力と厚い皮膚により、深海の生態系では「最上位捕食者」の一角を担っています。

④ 繁殖・成長

繁殖は胎生(無胎盤性胎生)で、母体内で卵が孵化し、胚は卵黄を栄養源として育ちます。 産仔数は20〜100匹にも及ぶことがあり、これはサメ類としては非常に多産な部類です。

出生時の仔ザメは60〜70cmほどで、すでに成魚とほぼ同じ形をしています。 成長は遅く、成熟までに10年以上を要するとされ、寿命は推定で80年近くに達する可能性があります。

深海という安定した環境に適応した結果、代謝が低く、個体群の回復には時間がかかります。 そのため、乱獲や混獲による個体数の減少が世界的に懸念されています。

⑤ 繁殖・成長(補足)

エドアブラザメ(Hexanchus griseus)は卵胎生(無胎盤性胎生)で、胚は卵黄を栄養として母体内で発育します。 既知の記録では20〜100匹超の多産例があり、出生時は約60〜75cmと大型です。 一方で成長は遅く、成熟までに長い時間を要します(雄およそ3m、雌4m前後が成熟目安)。

  • 産仔数:多い(地域差・個体差が大きい)
  • 出生サイズ:60–75cm
  • 成熟:♂ ≈3m/♀ ≈4m(晩熟)
  • 世代時間:長い(深海性・低代謝)

※胎生だが胎盤は形成せず、卵黄依存の発育。世代交代が遅いため、減少後の回復には時間を要します。

⑥ 人との関係・保護

深海性のため人前に現れることは稀で、人身リスクは極めて低いサメです。遭遇の多くは底びき網や延縄による混獲。 肝臓(肝油)や肉が利用される地域もありますが、広域での主要漁獲対象ではありません。

主な脅威 深海漁業での混獲・努力量増加/晩熟・長寿ゆえの回復の遅さ/データ不足
保全状況 IUCNでは多くの海域で脆弱(Vulnerable)相当の評価例。予防的管理が推奨。
推奨アクション 混獲データの長期モニタリング/サイズ・季節・水深に応じた回避策(針・餌・投入深度)/学術標本・年齢査定の蓄積
教育的価値 「6対の鰓裂」「背びれ1基」「ノコギリ状の下顎歯」など原始的形質の教材価値が高い。

⑦ 観察・展示情報

生息は主に大陸斜面の深海(200〜2500m)で、自然下での観察は非常に困難です。 国内では相模湾・駿河湾・土佐湾などで研究調査や試験操業中に混獲されることがあり、標本展示や映像資料として紹介されます。

  • 生体展示:極めて稀。減圧・低温・溶存酸素・長距離輸送が課題で長期飼育はほぼ不成功。
  • 観察ポイント:6対の鰓裂/尾鰭上葉の長さ/背びれ1基/下顎の鋸歯列。
  • 映像での出会い方:ROV・深海探査映像、水族館・研究機関の公式動画、報道アーカイブ。

図鑑ページに動画を載せる場合は、公開設定の直前チェック代替候補の用意(2〜3本)を。地域制限・年齢制限で視聴不可になるケースがあります。

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