カグラザメ

サメ図鑑

基本データ

和名 / 英名 / 学名 カグラザメ(Kagura Shark)/Sixgill Shark, Bluntnose Sixgill Shark
Hexanchus griseus
分類 カグラザメ目(Hexanchiformes)カグラザメ科(Hexanchidae) ― 「六枚の鰓裂(ろくさいれつ)」を持つ原始的なサメの系統。
体長・体重 通常で3〜4.5m、最大記録は約6m・重さ600kg超に達する大型深海ザメ。 雌のほうが雄より大きく成長する傾向があります。
分布海域 世界中の温帯〜熱帯の深海に広く分布。 日本近海では本州沿岸〜沖縄トラフ、駿河湾、土佐湾などで記録があります。 北太平洋、北大西洋、インド洋にも生息。
生息深度 主に200〜2000m前後の深海域に生息。 夜間に中層まで浮上する「日周鉛直移動」を行う個体も確認されています。
IUCNレッドリスト Near Threatened(準絶滅危惧)。 底曳き網や延縄漁での混獲が多く、成長が遅く繁殖率も低いため、資源減少が懸念されています。
識別ポイント
  • 鰓裂が6対:多くのサメが5対なのに対し、6対という原始的特徴を持つ。
  • 吻が丸く鈍い:「Bluntnose(鈍い鼻)」の名の通り、丸みを帯びた頭部形状。
  • 背びれが1基のみ:尾の近くに小さく位置する。
  • 歯が独特:下顎の歯がノコギリ状に連なり、骨や大型魚を切り裂く構造。
  • 体色:暗灰色〜褐色。深海光に溶け込む保護色。

① 外見の特徴

カグラザメ(Hexanchus griseus)は、原始的な形質を残す深海性の大型ザメです。最大の識別点は、 多くのサメが5対なのに対して6対の鰓裂(ろくさいれつ)をもつこと。背びれは1基のみで、 体の後方(尾びれに近い位置)に小さく立ちます。頭部は丸く鈍い“ブランチノーズ”で、目は大きく、 深海の微光下でもコントラストを捉えやすい構造と考えられています。

口は広く、上下で異なる歯(異歯性)をもつのも特徴です。上顎は細かい三角状の歯、 下顎はノコギリ状に連なる多尖歯で、肉や骨に食い込みやすい“刃”として機能します。 体色は暗灰〜褐色で腹側はやや淡色。太い胴、幅広い胸びれ、長い尾葉が重厚なシルエットを作ります。

② 生態・行動

主な生息域は水深200〜2,000mの大陸斜面・海底谷。地域や季節によっては夜間に 中層へ浮上する日周鉛直移動が見られます。遊泳は省エネ型で、海底地形(斜面・谷沿い)を トレースしながら巡航。単独または緩い集合で行動することが多く、長距離回遊よりも局所的な 行動圏の中で暮らす傾向があります。

性格は温和で、人前に現れる機会は稀。行動データの多くは漁業・調査による混獲から得られます。 大型個体ほど深い層を好む傾向が示唆され、雌の方がやや深い水深域で記録される例もあります。 低温・低光量・高圧環境に適応した、代謝の低い“深海モード”のライフスタイルです。

③ 食性と狩りの方法

食性は肉食性で、深海性の硬骨魚・頭足類(イカ・タコ)、甲殻類のほか、 他のサメやエイなどの大型獲物、さらには鯨類の死骸(スカベンジング)にも集まります。 嗅覚と側線、電気受容器を使って獲物や死骸の位置を察知し、低速で接近して一気に咬みつきます。

捕食時は大きな口腔容積による吸い込みと、下顎のノコギリ歯での引き裂きが武器。 獲物を頭から飲み込みやすい姿勢へと体を回し、左右に頭を振って切り裂く動作がよく観察されます。 機動力よりも一撃の重さと顎の保持力で勝負する、深海の“重量級”スタイルです。

④ 繁殖・成長

繁殖様式は卵胎生(無胎盤性胎生)で、胚は卵黄を栄養に母体内で発育します。 特徴的なのは非常に大きい産仔数で、文献では20〜100匹超(地域差あり)という 例が報告されています。出生時の体長は約60〜75cmと大型。成長は遅く、 成熟サイズは雄でおよそ3m、雌で4m前後に達します。

世代時間が長く、少産ではないが晩熟・低い更新速度という深海ザメらしい特性を持ちます。 そのため一度減少すると回復が遅れがち。地域によっては妊娠期間が長期に及ぶ可能性が指摘され、 資源管理では保守的な取り扱い(混獲データの蓄積・生息深度に応じた回避策)が推奨されます。

⑤ 繁殖・成長

カグラザメ(Hexanchus griseus)の繁殖様式は卵胎生(無胎盤性胎生)です。胚は卵黄を栄養に母体内で発育し、十分に成長してから出産されます。 本種の特徴は産仔数が非常に多いこと。報告値は地域差が大きいものの、概ね20〜100匹超に達する例が知られます。

出生時の体長は約60〜75cmと大型。成長は比較的ゆっくりで、性成熟は雄がおよそ3m前後、雌は4m前後に達してからと考えられます。 深海性・低代謝ゆえ世代時間は長く、個体群の更新速度は低めです。妊娠期間は長期化する可能性が示唆されており、各海域での正確なライフヒストリーの把握が課題です。

  • 繁殖:卵胎生/少なくないが“晩熟・長寿”型で回復は緩やか
  • 産仔数:20〜100+(地域差・個体差あり)
  • 出生サイズ:約60–75cm
  • 成熟目安:♂ 約3m/♀ 約4m

⑥ 人との関係・保護

深海性で人の生活圏に現れにくく、人身リスクは極めて低い種です。出現記録の多くは底びき網・延縄などの混獲に由来します。 食用・利用は地域限定で、肝油や研究標本として扱われることがあります。

ただし、晩熟・長寿・低い更新速度というライフヒストリーのため、長期的な漁業圧・混獲が続くと個体群への影響が蓄積しやすい点に注意が必要です。 IUCN評価は(地域・年次で差はあるものの)概してNear Threatened(準絶滅危惧)相当の扱いが多く、予防原則に基づく管理が推奨されます。

主な脅威 深場漁業での混獲/深海漁業の努力量増加/生息環境(海底谷・斜面)の劣化・変化/データ不足
推奨アクション 混獲データの長期モニタリング/サイズ・季節・水深に応じた回避策(針形状・餌・投入深度など)/標本・繁殖情報の蓄積と公開
教育的価値 「6対の鰓裂」「背びれ1基」「ノコギリ状の下顎歯」など原始的形質の教材価値が高い。深海生態の普及・啓発に有効。

⑦ 観察・展示情報

自然下での観察はほぼ不可能で、レジャーダイビングでの遭遇例はありません。国内では駿河湾・土佐湾・相模湾などで研究・漁業活動中の混獲として記録されます。 生体の長期飼育は難しく、標本展示や冷凍・標本映像の解説が主流です。

  • 展示の難易度:非常に高い(減圧・低温・溶存酸素の管理、輸送ストレスが課題)
  • 見どころ:6対の鰓裂/背びれ1基/巨大な下顎のノコギリ状歯列/太い胴と長い尾
  • 学習のコツ:同科のキタオオメジロザメ類(六鰓ザメ類)との違いは「頭部形状」「歯列構造」「背びれ位置」でチェック

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