エポーレットシャーク

サメ図鑑

基本データ(エポーレットシャーク)

和名 / 英名 / 学名 エポーレットシャーク / Epaulette SharkHemiscyllium ocellatum
「エポーレット(epaulette)」とは肩章(かたしょう)を意味し、肩の黒い眼状斑が名前の由来です。
分類 軟骨魚綱 Chondrichthyes / ネコザメ目 Orectolobiformes / トラザメ科(またはナヌカザメ科)Hemiscylliidae / エポーレットシャーク属 Hemiscyllium
体長・体重 成魚で最大約1.0〜1.1m、通常は70〜90cm。 体重は2〜3kgほどで、細身の体型。
成長が遅く、成熟まで約7年を要するとされます。
分布海域 主にオーストラリア北東部(グレートバリアリーフ周辺)パプアニューギニア沿岸に分布。 珊瑚礁やラグーンの浅い海域を好み、潮の満ち引きに合わせて行動します。
生息深度 0〜50m程度の浅海に生息。 干潮時には潮だまり(タイドプール)に取り残されることもありますが、 強い耐酸素欠乏能力によって生き延びることができます。
IUCNレッドリスト LC(Least Concern/低危険種)[IUCN 2020]。 限定的な分布ではありますが、安定した個体群が維持されています。
識別ポイント
  • 胸びれと腹びれが歩行に使えるほど発達しており、“歩くサメ”として知られる。
  • 体側に黒い眼状斑(肩章模様)が1対あり、捕食者に対する威嚇や擬態効果を持つ。
  • 体は細長く、斑点(スポット)が全身に点在。
  • 吻は丸みを帯び、口は腹側でネコザメに似る。
  • 遊泳よりもヒレを使った匍匐(ほふく)運動が得意で、陸上でも短時間“歩行”が可能。

“Walking shark(歩くサメ)”として知られ、干潮時の潮だまりでも酸欠に耐え、胸びれと腹びれで岩場を移動するユニークな適応を持ちます。

① 外見の特徴

エポーレットシャーク(Hemiscyllium ocellatum)は、体長70〜90cm前後の小型サメ。 最大の特徴は胸びれ直後の黒い大きな眼状斑(オセロット=肩章)で、白い縁取りが入ります。 背面は黄褐〜淡褐色に細かな暗色スポットが散り、腹面は白。細長くしなやかな体に対し、胸びれ・腹びれは相対的に大きく、底を「歩く」ために発達しています。

吻は丸く、鼻孔の縁に小さなひげ状突起(鼻ひげ/バーベル)。口は腹側にあり、底生生物を吸い込むのに適した構造です。 尾鰭は下葉が短い非対称型。背鰭は2基で小さく、第一背鰭は腹びれのやや後方に位置します。

② 生態・行動

サンゴ礁〜ラグーンの浅海(概ね0〜30m)で夜行性。日中は岩陰や砂中に身を潜め、夕刻から活動が活発になります。 潮の干満に合わせてタイドプール(潮だまり)にも進入し、干潮で水位が低下しても数時間規模の低酸素に耐える適応を持ちます。

移動は遊泳よりも胸びれ・腹びれを交互に突き出す「匍匐(ほふく)」が主体。岩や珊瑚の段差を“よじ登る”ことができ、 上陸ではないものの、露出した岩間を短距離移動する映像でも知られています。縄張りは小さく、同一礁の決まったルートを巡回する傾向があります。

③ 食性と狩りの方法

食性は底生の雑食的肉食。主にカニ・エビ・シャコなどの甲殻類、ゴカイ類(多毛類)、 軟体動物(小型タコ・二枚貝・巻貝)、小魚・甲殻類幼生を捕食します。

狩りは「嗅覚+触覚寄り」で、バーベルで砂をまさぐり、鼻孔と口から強い吸い込みで獲物を吸入。 口縁は柔軟で、岩の隙間に密着して負圧を作りやすい形状です。牙は小型で多数、噛み切るというより呑み込むのに向きます。 夜間、リーフの砂礫底や藻場をジグザグに歩きながら効率よく採餌します。

④ 繁殖・成長

繁殖は卵生。雌は革質の卵鞘(マーメイドパース)を左右1対ずつ産みつけ、根や岩に糸状突起で固定します。 水温によって差はあるものの、孵化までの期間はおおむね3〜4か月程度。孵化した仔は約13〜16cmで、成魚と同じ模様(眼状斑)を持ちます。

成長はゆっくりで、飼育下・野外いずれの研究でも成熟まで数年を要するとされます。 産卵は季節性があり、温暖期に産卵頻度が上がる傾向。寿命は10年以上と推定され、同海域の資源状態には局地的な環境変化(礁の破壊・低酸素化・水温異常)が影響しやすい種です。

眼状斑は捕食者を威嚇する「目玉模様」として働き、頭部を大きく見せる効果があります。低酸素耐性はこの種の生理学的研究のトピックでもあり、礁湖の極端環境への適応例として注目されています。

⑤ 繁殖・成長(補足)

エポーレットシャーク(Hemiscyllium ocellatum)は卵生のサメで、雌は交尾後に革質の卵鞘を岩や海藻に産みつけます。 卵は細長い楕円形で、先端に糸状の突起(アンカー)があり、流れに流されにくい構造をしています。 1回の産卵で2卵を産むのが一般的で、年間では複数回の産卵が確認されています。

  • 繁殖様式:卵生(マーメイドパース型)
  • 産卵数:1回2卵 × 年数回
  • 孵化期間:約100〜130日(26〜28℃の環境下)
  • 孵化直後のサイズ:約13〜16cm
  • 成熟サイズ:雄約54cm/雌約60cm

仔サメは生まれた直後から独立し、成魚とほぼ同じ模様を持ちます。 成長はゆるやかで、成熟までに6〜7年を要します。 成長や繁殖のデータは飼育下で多く得られており、温度と光周期が発育に大きく影響することが報告されています。

⑥ 人との関係・保護

エポーレットシャークは人に対して攻撃的ではなく、安全なサメとして知られています。 オーストラリアなどではダイビングスポットで人気があり、「歩くサメ」として観光資源にもなっています。 一方で、沿岸開発・サンゴ礁の破壊・水温上昇などにより生息環境が局地的に脅かされつつあります。

主な脅威 沿岸開発・サンゴ礁破壊/水質汚濁/水温上昇による酸素欠乏域の拡大
保全状況 IUCNレッドリストではLC(低危険種)ですが、特定地域では個体群減少が報告されています。
研究・保護の焦点 干潮環境での酸素耐性や耐乾燥適応に関する研究が進行中。礁湖生態系のモニタリングにも活用されています。
文化・教育的価値 「歩くサメ」として子ども向け図鑑や教育番組に多く登場。行動適応の教材として注目されています。

⑦ 観察・展示情報

世界各地の水族館で比較的飼育しやすいサメとして知られ、人工繁殖例も多い種です。 酸素欠乏に強く、穏やかな性格のため展示個体として人気があります。 日本では沖縄美ら海水族館、サンシャイン水族館、名古屋港水族館などで展示された実績があります。

  • 観察環境:サンゴ礁水槽や夜間展示ゾーンで見られる。
  • 特徴的な動き:胸びれと腹びれを交互に動かして“歩く”ように移動。
  • 展示条件:26〜28℃の安定した水温・低照度・岩陰構造が必要。
  • 飼育下繁殖:多数成功例あり。卵鞘を確認できる展示も行われている。

飼育下での繁殖成功率が高く、遺伝的多様性の維持や環境変化への適応研究の対象にもなっています。 動きが穏やかで愛嬌があり、教育展示にも最適なサメです。

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