ニシレモンザメとは
ニシレモンザメ(学名 Negaprion brevirostris、英名 Lemon shark)は、メジロザメ科レモンザメ属に分類されるサメです。大西洋と東太平洋の沿岸浅海に分布し、マングローブ林や砂底の浅場を利用します。
黄色みを帯びた体色が英名 “Lemon shark” の由来とされます。世界でもっとも研究が進んだサメの一種で、バハマ・ビミニ諸島では1995年から長期調査が続けられています。
日本近海には分布しません。 日本で見られる近縁種は、別種の「レモンザメ」(Negaprion acutidens)です。この2種の混同が最も起きやすい点なので、後述の「名前」の項を先に読むことをおすすめします。
基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 和名 | ニシレモンザメ |
| 学名 | Negaprion brevirostris (Poey, 1868) |
| 英名 | Lemon shark |
| 分類 | メジロザメ目 メジロザメ科 レモンザメ属 |
| 分布 | 西大西洋・東大西洋・東太平洋 |
| 生息深度 | 0〜92 m |
| 最大全長 | 約 340 cm |
| 成体の一般的な全長 | 約 250〜300 cm |
| 最大公表体重 | 約 184 kg(FishBase) |
| 寿命 | 最大 25〜27年(資料により幅がある) |
| 食性 | 硬骨魚類、甲殻類ほか |
| 繁殖 | 胎盤型胎生 |
| 保全状況 | IUCN:危急(VU)/CITES 附属書II |
名前 ── 「レモンザメ」との違い
日本語の「レモンザメ」と英語の “lemon shark” は、別の種を指します。 日本語名と英名を機械的に対応させると混同しやすい部分です。
| 標準和名 | 学名 | 英名 | 主な分布 |
|---|---|---|---|
| ニシレモンザメ | Negaprion brevirostris | Lemon shark | 大西洋、東太平洋 |
| レモンザメ | Negaprion acutidens | Sicklefin lemon shark / Sharptooth lemon shark | インド太平洋(日本から紅海・南アフリカ、オーストラリアなど) |
同じレモンザメ属(Negaprion)に属する近縁種で、外見もよく似ています。分布域が重ならないため、産地が分かれば区別できます。英語の記事や図鑑を参照するときは、”lemon shark” が N. brevirostris を指している点に注意してください。
分類
メジロザメ目(Carcharhiniformes)メジロザメ科(Carcharhinidae)レモンザメ属(Negaprion)。学名は1868年にキューバの博物学者フェリペ・ポエイによって記載されました。
種小名 brevirostris は「短い吻」を意味し、この種の頭部の特徴を表しています。
分布と生息環境
三つの海域に分かれて分布します。
- 西大西洋 — 米国ニュージャージー州からブラジル南部、メキシコ湾、バハマ、カリブ海
- 東大西洋 — セネガル、コートジボワールなど西アフリカ沿岸
- 東太平洋 — バハ・カリフォルニア南部からエクアドル
いずれも沿岸性で、水深は表層から約92mまで。サンゴ礁の周辺、マングローブ林、湾内、河口部など、濁った浅い水域を好みます。大陸棚や島棚への依存が強い一方、移動時に外洋へ出ることもあります。
幼魚はとくにマングローブの根が入り組んだ浅場を利用し、そこが天敵から身を守る育成場(ナーサリー)として機能しています。
見た目と見分け方
体色は背側が黄褐色からオリーブ色、腹側が淡色。吻は短く、やや平たい形をしています。
決め手になるのは背びれです。第一背びれと第二背びれがほぼ同じ大きさで、これはレモンザメ属に共通する特徴です。多くのメジロザメ科の種では第二背びれが明らかに小さいため、この点だけで属レベルの絞り込みができます。
混同されやすい種
| 種 | 学名 | 見分けの要点 |
|---|---|---|
| レモンザメ | N. acutidens | 同属で外見が酷似。分布で区別する(インド太平洋) |
| メジロザメ(ヤジブカ) | Carcharhinus plumbeus | 第一背びれが大きな三角形で体の前方に位置し、第二背びれは明らかに小さい。背びれの間に隆起線(interdorsal ridge)がある。体色は青灰色〜褐色がかった灰色 |
とくに Carcharhinus plumbeus は別属・別種であり、体長・食性・繁殖などの数値をニシレモンザメと共有しません。図鑑や解説記事を参照する際は、学名が Negaprion brevirostris であることを必ず確認してください。
大きさ
最大全長は約340cmが記録されています。ただしこれは記録上の最大値で、実際に観察される成体の多くは約250〜300cmの範囲です。FishBaseに掲載された最大公表体重は183.7kgです。Florida Museumの種解説は最大約250kgとしていますが、出典によって差があります。
出生時の全長は約50〜65cmとされ、資料によって幅があります。成熟に達するのは雌で約235cm、雄で約225cm前後です。
食性
主食は硬骨魚類と甲殻類です。ナマズ類、ボラ、アジ類などの魚類のほか、カニなどの甲殻類を捕食します。小型のサメやエイを食べることもあります。
濁った浅場に生息するため視覚以外の感覚に頼る場面が多く、摂餌行動や感覚器の研究対象として長く用いられてきました。
繁殖と成長
胎盤型の胎生で、母体から栄養を受け取った仔が産まれます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 繁殖様式 | 胎盤型胎生 |
| 妊娠期間 | 約10〜12か月 |
| 一度の産仔数 | おおむね4〜17匹(資料により幅がある) |
| 出生時の全長 | 約50〜65cm(資料により幅がある) |
| 出産間隔 | 隔年とされる |
| 成熟年齢 | 約12〜13歳 |
| 寿命 | 最大25〜27年 |
出生地への回帰 — バハマ・ビミニ諸島での長期研究により、雌が自分の生まれたマングローブの浅場に戻って出産する強い傾向(natal philopatry)が示されています。同研究で出生地と出産地を追跡できた雌では、北側の育成場で生まれた個体は北側へ、南側で生まれた個体は南側へ戻りました。雄はマングローブの育成場へ戻ることが少ないと報告されています。
この性質は保全上きわめて重要です。特定の育成場が失われると、そこに回帰する系統がまとめて影響を受けるためです。
成長と成熟が遅く、出産も隔年であるため、漁獲などで減少した個体群の回復には長い時間を要します。FishBaseのモデル評価でも、個体群の回復力は「非常に低い」とされています。
行動と生態
昼夜を通じて活動しますが、活性には日周変化があるとされます。若い個体は同じ海域に長くとどまる傾向が強く、成長にともなって行動範囲を広げていきます。
同程度の大きさ・同性の個体で集まる(サイズ別・性別の集合)ことが知られています。飼育下と野外の双方で長く研究され、サメ類の学習能力・社会行動・感覚生理に関する重要な知見をもたらしてきました。
人との関わり
大型の沿岸性サメであり、扱いに注意が必要な種であることは確かです。Florida Museumの種解説は、International Shark Attack Fileの2018年時点の集計として、未挑発事故10件、死亡例なしと記載しています。事故件数は更新される可能性があるため、最新状況は同機関のデータベースで確認する必要があります。
過度に危険視される種ではありませんが、野生個体に接近したり給餌したりする行為は避けるべきです。
漁業面では、沿岸の商業漁業で漁獲されるほか、遊漁(ゲームフィッシング)の対象にもなっています。
保全状況
IUCNレッドリスト:危急(Vulnerable, VU) — 2020年に評価され、2021年に公表された区分です。
CITES附属書II — 2022年のCoP19でメジロザメ科(Carcharhinidae)の多数種が附属書IIに追加され、2023年11月25日に発効しました。国際取引には輸出許可等が必要です。
主な脅威は次の二つです。
- 沿岸漁業による漁獲・混獲 — 肉やひれの利用、および他魚種を狙った漁での混獲
- 育成場の消失 — 沿岸開発によるマングローブ林の減少。前述の出生地回帰の性質があるため、育成場の破壊は局所個体群に直接的な打撃となります
成長が遅く、成熟までに12年以上を要し、繁殖が隔年である――という生活史は、漁獲圧からの回復を難しくしています。
日本で見られるか
ニシレモンザメは日本近海には分布しません。
日本の海で記録されるレモンザメ属は、近縁の*レモンザメ(Negaprion acutidens)*です。この種は日本を含むインド太平洋に分布します。
国内の水族館で「レモンザメ」の展示を見かけた場合は、掲示されている学名を確認してみてください。Negaprion acutidens であればインド太平洋のレモンザメ、Negaprion brevirostris であればニシレモンザメです。
資料によって数値が異なる点
正確を期すため、参照資料間で食い違いがある箇所を明示します。
| 項目 | 食い違い | 本記事での扱い |
|---|---|---|
| 保全状況 | Florida Museum のページは「準絶滅危惧(NT)」と表示。これは旧評価に基づくもの | 現行のIUCN評価である「危急(VU)」を採用 |
| 産仔数 | FishBase は「5〜17匹」、Florida Museum は「4〜17匹」 | 「おおむね4〜17匹」と幅をもって記載 |
| 寿命 | FishBase は最大25年、Florida Museum は約27年 | 「25〜27年」と併記 |
| 最大体重 | FishBase は最大公表体重183.7kg、Florida Museum は最大約250kg | 基本データ表ではFishBaseの最大公表体重を採用し、本文で差を説明 |
| 出生時の全長 | FishBase は60〜65cm、Florida Museum は50〜60cm | 「約50〜65cm」と幅をもって記載 |
このほか、成熟サイズや最大全長も調査海域・年代によって差があります。単一の数値を断定的に扱わないことを推奨します。
参照資料
- FishBase — Negaprion brevirostris
- Florida Museum of Natural History — Lemon Shark (Negaprion brevirostris)
- IUCN Red List — Negaprion brevirostris (T39380A2915472)
- IUCN Red List — Negaprion acutidens (T41836A173435545)
- FishBase — Negaprion acutidens
- CITES — Delayed CITES listings of sharks came into effect on 25 November 2023
- Bimini Biological Field Station (Shark Lab) — Lemon Shark Family Tree
- Florida Museum of Natural History — Sandbar Shark (Carcharhinus plumbeus)
- JAMSTEC BISMaL — Carcharhinus plumbeus メジロザメ/ヤジブカ
本記事は上記の公的機関・研究機関の公開資料に基づいて作成しています。数値は調査海域や年代によって変動するため、研究用途では一次資料をご確認ください。



