ツラナガコブシザメ

サメ図鑑

基本データ

和名 ツラナガコブシザメ(標準和名:サガミザメ)
英名 Rough longnose dogfish
学名 Deania hystricosa (Garman, 1906)
分類 軟骨魚綱 Chondrichthyes / ツノザメ目 Squaliformes / アイザメ科 Centrophoridae / ヘラツノザメ属 Deania
体長・体重 最大全長:約109cm(雌)・約84cm(雄報告)
※地域差あり。 :contentReference[oaicite:0]{index=0}
分布海域 東大西洋(マデイラ周辺)/西太平洋(日本南部沿岸域など)。国内では相模湾・駿河湾などの記録。 :contentReference[oaicite:1]{index=1}
生息深度 およそ600–1,000mの上部~中部大陸斜面域に多い。 :contentReference[oaicite:2]{index=2}
IUCNレッドリスト DD(情報不足)※2008評価/FishBase最新版でもDDとして整理。 :contentReference[oaicite:3]{index=3}
識別ポイント ・非常に長く角張った吻(longnose)/肛びれなし
・小さな溝状の背びれ棘(第1背びれは細長く高い)
・大きく粗い「熊手状(pitchfork)」の皮歯でザラつく肌(=rough)
・体色は暗褐~黒褐色/深場性のやや細身シルエット。 :contentReference[oaicite:4]{index=4}

① 外見の特徴

ツラナガコブシザメ(標準和名:サガミザメ/Deania hystricosa)は、深海性の小〜中型サメ。最大で全長1m前後に達し、体は細長く流線型で、体色は暗褐〜黒褐色です。名前の通り非常に長い吻(ロングノーズ)が最大の識別点で、側面から見ると刃物のように鋭く突き出して見えます。体表は大きく粗い皮歯に覆われており、英名 “rough” の由来となるザラついた触感を持ちます。

背びれは2基でいずれも小さな棘を備え、第1背びれは高く細い三角形。肛びれは欠如します。胸びれはやや短めで、深場の巡航に適した形状。目は比較的大きく、深海の弱い光でもコントラストを捉えやすい構造と考えられています。雌の方が大型になりやすい雌雄差が報告されます。

② 生態・行動

おもに大陸斜面の水深600〜1,000m帯に分布し、相模湾や駿河湾など日本近海の深場で記録があります。生活様式は海底付近を回遊する底生〜半底生型で、単独もしくは小さな群れで行動します。日周移動は大きくないとみられますが、地形(海底谷や崖、湧昇域)に沿った局所回遊を行うことがあります。

深海では捕食者も限られる一方、エネルギー収支が厳しいため、行動は省エネ的。一定のコースを繰り返しパトロールし、におい・側線・微弱電気を総合して獲物の兆候を拾います。漁具への混獲で得られる情報が主で、野外の詳細な行動生態はまだ“情報不足(DD)”の域にあります。

③ 食性と狩りの方法

食性は魚食中心の雑食寄り肉食。小型の底生魚や中層性の硬骨魚、状況に応じてイカ・タコなどの頭足類を捕食します。狩りは短距離の急襲+吸い込みが基本で、長い吻は捜索時のセンサー面積を稼ぎ、海底近くのわずかな動きを察知するのに役立つと考えられます。

追跡して体力を消耗するよりも、待ち伏せと一撃を重視。視覚に頼れない環境では嗅覚と側線が主役で、獲物の移動方向を読み、口腔内の陰圧で一気に吸い込んでから鋭い歯で切り取ります。胃内容物の報告は地域差がありますが、深海のベイトフィッシュ群(発光性小魚など)を利用するケースも示唆されています。

④ 繁殖・成長

繁殖様式は卵胎生(無胎盤性胎生)。卵黄を栄養源として胚が母体内で発育し、ある程度育った仔が出産されます。深海サメに共通して成熟が遅く、産仔数も多くはありません(近縁種では数〜十数個体規模の報告)。雌は雄より大きくなる傾向があり、最大で約1m級の記録があります。

成長速度は緩やかで、世代交代に時間を要するため、混獲や漁獲圧が続くと個体群の回復は遅れがちです。現状は学術的にもデータが不足しており、レッドリストではDD(情報不足)とされる地域が多いですが、深海漁業や海洋環境の変化の影響には継続的な注意が必要です。

⑤ 繁殖・成長

ツラナガコブシザメ(=サガミザメ/Deania hystricosa)の繁殖様式は 卵胎生(無胎盤性胎生)です。胚は卵黄(ヨークサック)を栄養源に母体内で発育し、 一定サイズに達すると出産されます。正確な産仔数は地域差・標本数の少なさから まだ限定的ですが、近縁種の知見から少産・晩熟・長寿のライフヒストリーが推定されます。

深海サメに共通して成長は緩やかで、成熟サイズは雌の方が大きくなる傾向。 産仔サイズは比較的しっかりしており、低い生産力の代わりに生残率を高める戦略と考えられます。 胎内滞在が長いぶん、出産間隔も長めで、個体群の回復には時間を要します。

  • 繁殖様式:卵胎生(無胎盤性)/少産型
  • 成熟:晩熟(推定)/雌>雄で大型化傾向
  • 世代時間:長い(推定)—深場性サメの一般特性に一致

⑥ 人との関係・保護

人に対して危険性は非常に低いサメです。人前に現れることも稀で、主な遭遇は 深場の延縄・底びき網などの混獲を通じてです。商業価値は高くない一方、 深海魚油や研究試料として扱われる場合があります。

ただし、低生産力(少産・晩熟)ゆえに、持続的な混獲や深場漁業の拡大は 個体群に影響しやすい懸念があります。学術データが乏しいため、 IUCN評価は多くの地域でDD(情報不足)に留まり、保全上は 「予防原則」が適用されます。研究・調査の継続、深場での 兼業的な漁獲圧の把握、時期・海域に応じた混獲回避策(針・餌・水深帯の最適化など)が望まれます。

  • 人身リスク:極めて低い(深海性・人前に出ない)
  • 主なリスク:混獲、深場漁業の拡大、データ不足
  • 推奨アクション:標本・生態データの蓄積、混獲軽減策、長期モニタリング

⑦ 観察・展示情報

野外での観察はほぼ不可能に近く、深度600〜1,000m帯の大陸斜面に依存するため、 ダイビングでの遭遇記録はありません。国内では相模湾・駿河湾などの 調査・試験操業や学術採集で記録されます。

国内での出会い方 学術標本展示・特別企画展での標本解説が中心。活魚展示は極めて稀(深海性・飼育困難)。
展示の難しさ 水温の安定化・溶存酸素の確保・減圧障害の管理が課題。長期飼育事例はほぼ報告なし。
観察ポイント(標本) 長大な吻、肛びれの欠如背びれ棘、ザラつく粗大皮歯に注目。 近縁のヘラツノザメ属(Centrophorus)と混同しないよう、吻形状と皮歯で確認。

※「ツラナガコブシザメ」は国内でサガミザメ(Rough longnose dogfish, Deania hystricosaを指す用例が一般的です。 似た名称のツラナガコビトザメ(Squaliolus aliaeは別種(最小級の深海サメ)なので混同注意。

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